学生が大学を提訴
大学が訴えられる。
以下は、2021年6月9日の朝日新聞の記事から引用。
コロナ禍を理由に対面授業をやらないのは、
大学として義務を果たしていない ――。
そう訴える男子学生(19)が、学費の半額分の
返還などを大学側に求める訴訟を東京地裁に
近く起こす。学生は「オンライン授業を安易に
続ける大学に不安や疑問を感じる学生は多い。
誰かが声をあげないといけない」と話している。
オンライン授業に対し「不安や疑問を感じる学生は多い」。
確かに。オンライン授業をしていると、学生から
「はやく対面授業を受けたい」という声を聴く。
しかし、本質的な問題は
そこ(オンラインか対面か)だろうか、という気もする。
一口にオンライン授業といっても、荒く言って次の4種類がある。
① 同時配信型
② オンデマンド型
③ ブレンド型(①と②との組み合わせ)
④ ハイフレックス型(同じ授業を①と②と対面の3パターンで実施)
③と④について議論すると、話が複雑になるので、
ここでは、①と②に的を絞って考えたい。
①では、教員が研究室や自宅からビデオや音声を使って
リアルタイムに授業を配信する。
学生は、自宅等からビデオや音声を受信する。
②は、教員がインターネット上で資料や講義ビデオ、課題を配付する。
学生は、好きなときに好きな場所からアクセスし学習する。
実は、一方的に知識を伝達するような講義型の授業の場合、
対面でも①の授業でも、内容的・形式的にあまり大きな違いはない。
問題は②だ。
コロナ禍になってから、大学では、②の授業が圧倒的に増えた。
特定の専門分野に関する資料や講義ビデオ、課題を、
学生とって適切な形式・内容・順番・分量で提供するには、
相当高いレベルの「教育方法」に関する知識・技能が必要だ。
ところが、多くの大学教員は、その「教育方法」、例えば
インストラクショナル・デザイン(教育設計学)について
学んだことがない。
さらに、②の授業が学生にとって意味のある形で機能するには、
教員による定期的かつ適切なフィードバックが不可欠だが、
多くの大学教員は、学生の書くレポート等に対して、
フィードバックをしないか、したとしても、極めて不十分だ。
先述の①の授業をするにしても、一方的な講義型でなく、
教員と学生、又は学生同士が双方向に学び合うような学習環境を
継続的につくるためには、やはり「教育方法」、
例えば、ワークショップ・デザイン(コミュニケーションの場づくり)
に関する知識や技能が必要だ。
しかし、多くの大学教員は、それらを学んだことがない。
突きつめて考えると、大学教員は、研究の専門家であって、
教育の専門家ではない。
つまり、問題の本質は、(これは大学教育に限らないが・・)
「教育方法」の知識・及び技能の重要性に関する認識の甘さ、
と言えるかもしれない。
この問題は、仮に対面授業ができるようになったとしても
基本的には残る。というか、もともと問題であったものが、
コロナ禍において顕在化したといえるかもしれない。
今、何かを教える立場の人間が身に着けるべき、
「教育方法」とは具体的にどんなものなのか。
私も「教育方法」研究者の一人として、今後も探求していきたい。